成功事例から考察するBtoBオウンドメディアで売上貢献を実現する方法とは
BtoBマーケティングにおいても、オウンドメディア活用のニーズが拡大しています。最もインパクトを与えたのは新型コロナウイルスでしょう。ITWeekをはじめ大型の展示会やイベントが軒並み延期や中止になり、新規リード獲得のためWebやSNSといった新たなチャネルに挑戦しはじめました。私はWebディレクター時代、2000年代初頭に400件以上のWebサイトディレクションを行いました。ほとんど、中小のBtoB企業さんです。実は、そのときに作ったコンテンツやWebサイトって、いまだに上位表示されているんですよね。BtoBのオウンドメディアにはまだまだ可能性が広がっています。
1.そもそも「オウンドメディア」とは?
さて、そのそも「オウンドメディア」って何なのでしょうか。ブログ? 特設サイト? そうですね、もしかしたらそのあたりを一般的にオウンドメディアと指すかもしれません。けれど、広義にはYouTubeやTwitterをはじめとしたSNSも含みます。あらゆるチャネルにおいて「自社が情報発信するチャネル」がオウンドメディアです。最近は「note」も盛り上がりを見せています。なので、下記がオウンドメディアの種類(チャネル)になります。
企業の購買行動においてもインターネットは情報収集の主たる手段になりました。商品を選定する際に、インターネットで検索しないという人はほとんどいないでしょう。営業マンと商談をする前にほとんど比較は終わっている、というケースも少なくありません。情報発信の重要性はますます高まっています。
2.BtoBマーケターがオウンドメディアに取り組むべき理由
2019年12月にベーシックさんが発表した「オウンドメディア実態調査」によると、BtoB企業の約4割がオウンドメディアを運用しており、約2割が検討中と回答しています。折しも、2019年には大手企業のオウンドメディアが次々と閉鎖し、そのあり方を問われていた時期です。この調査を見る限り、BtoB企業のオウンドメディアに対する積極性が垣間見えます。
BtoB企業がオウンドメディアに取り組むべき理由は3つあります。
①購買単価が高いこと
BtoB商品はBtoCよりもはるかに高額で数十万はもちろん、数千万円クラスのものもざらです。仮にオウンドメディアの記事執筆を外注したとしても10万円程度です。その記事から1件でも成約が生まれれば、余裕でペイします。つまりROIが跳ね上がります。
②ニッチな領域であること
BtoC向けのキーワードが激戦区である一方で、BtoB向けのキーワードはニッチであることから競合が少ない傾向にあります。また競合があったとしても、十分競り勝てるレベルのことも。ニッチであるがゆえに検索キーワードも数が絞られ、カバーすべき領域も少なくすみます。つまりは必要なコンテンツを絞り込めます。
③営業(インサイドまたはフィールド)介在すること
営業が介在することは大きな強みです。BtoBのオウンドメディアの場合は、ホワイトペーパー等を通してリード(見込み顧客の名刺情報)を獲得します。その後に営業担当がコールやメールで接触し商談を行います。こうした能動的アプローチをできることが、BtoBの大きな強みです。BtoCでも保険や不動産など営業が介在する商材はありますが、リードナーチャリングという言葉はあまり聞きません。セールスチームの存在によって、1つのリードが継続的な価値を生み出すといえます。
3.toBオウンドメディアがぶつかる3つの課題、「品質」、「継続性」、そして「売上貢献」
BtoBのオウンドメディアを運用する際に必ずといっていいほどぶつかる壁があります。先にとりあげたベーシックさんの調査で見てみましょう。オウンドメディアを閉鎖した企業と運用中の企業が抱えている課題です。
引用:オウンドメディア※1実態調査(株式会社ベーシック)
グラフを見てわかるとおり、主な課題は下記です。
①コンテンツの質の担保
コンテンツの質を担保するのが難しいという理由は、ニッチな領域であるBtoB商材のあるあるです。機械系、素材系など専門知識が必要なケースは多く、ライターがついていけないのです。
②コンテンツを作っても成果につながらない
流入は増えたが成約につながらないという話もよく聞きます。選んだキーワードのニーズと製品の強みが離れていると起きやすいです。
③コンテンツの量の担保
コンテンツの量を確保できないというケースも多く見受けられます。予算がない、リソースがないという理由でコンテンツの投稿やチェックが後手後手になり、そのままなんとなく塩漬けに……なんてことも。
④体制が整っていない
勇み足ではじめると起こりやすいのがこのパターン。コンテンツを作っても、実装してくれるデザイナーやエンジニアをアサインできないという話もよく耳にします。
⑤コンテンツ制作のノウハウがない
そもそもBtoB企業は専任のマーケティング担当もおらず、社長や営業担当が片手間にやっていることも多いです。そのためWebやコンテンツ制作の知識がないというケースは少なくありません。
上記の例は実はすべて「品質」、「継続性」、「売上げ貢献」に集約されます。逆にいえばこの3つをクリアすれば、BtoB企業がオウンドメディアで成功する確率を高められます。
4.キーエンスの事例、「インデックス型コンテンツ」から学ぶべきこと
まずは「継続性」をどのように攻略すべきか、について紹介します。ここ数年、キーエンスさんのオウンドメディア戦略が話題になっています。
「インデックス型コンテンツ」としてメディアなどでもとりあげられています。インデックス型コンテンツとは何かというと、数百、数千ページといった大規模なコンテンツサイトを構築するのではなく、専門性の高い数十ページのコンテンツで校正されたオウンドメディアです。
キーエンスさんは事業領域や取り扱い商材ごとにこうしたインデックス型コンテンツを複数用意しています。見込み顧客、潜在顧客、あるいは既存顧客が製品に関連する情報を「学べる」サイトになっているのが特長。ホワイトペーパーなどをコンテンツごとに用意し、ダウンロード時にユーザー登録を促すことでリード獲得につなげています。このサイトを分析すると、下記のような点がとくに参考になります。
①ターゲットユーザーの情報ニーズをしっかりと分析している
一つ目はターゲットユーザーの情報ニーズをしっかりと分析している点。たとえば上記の例では画像センサそのものについて詳しく知りたいという人から具体的な導入事例、選定のポイントを知りたいという人など、ニーズごとにきちんとコンテンツが用意されています。
②ターゲットユーザーが検索する可能性の高いキーワードに的確に網をはっている
上記のようにターゲットユーザーのニーズを分析することで、検索の可能性が高いキーワードに確実に網をはっています。たとえば工場の生産性をはかる際に用いられる「生産タクト」という言葉に対して「生産タクト・装置タクト向上がもたらす収益改善」というコンテンツで網をはっています。(検索すると上位に表示される)
③コンテンツをターゲットユーザーに寄り添った内容に「限定する」
掲載するコンテンツをターゲットユーザーの情報ニーズに沿った内容に限定しています。上記のサイトは時々更新もされているようですが、更新頻度は高くありません。たとえばムリ矢理更新する内容を追加するならば、イベント・展示会情報なども掲載できます。あえてそうせず、情報を限定することで継続性が容易になるのです。
やや専門的な話になりますが、Googleのアルゴリズムのひとつに「QDF(Query Deserves Freshness)」というものがあります。別名、フレッシュネスアルゴリズムともいわれます。要は、新しい鮮度の高い情報を上位に出すというものです。ただしすべてのコンテンツに適用されるわけではありません。普遍的な情報であれば、たとえ更新がなくとも継続的に上位表示がなされ、コンバージョンを生み続けます。こうしたコンテンツを「エバーグリーンコンテンツ」と呼ぶことも。
公開すべきコンテンツを限定することで、一気にオウンドメディア運営が楽になります。必要なコンテンツを公開し終えた後は、導入事例やホワイトペーパーなどを追加したり、「働き方改革」や「DX」といった旬なキーワードが入ったコンテンツを掲載したりするだけでOKです。コンテンツの掲載順位が下がってきたら、コンテンツを「リフォームする」という手法もあります。
5.オウンドメディアにおける「質」とは
さて、次の課題として「品質」があります。オウンドメディアにおける「品質」の目的語には2つあります。「検索エンジン」と「ターゲットユーザー」です。たとえば下記のようなベン図にするとわかりやすいかもしれません。検索エンジンが評価する内容と、ターゲットユーザーが求める情報、この2つの交点を意識してコンテンツを制作する必要があります。
では検索エンジンに対する品質とはどのようなものでしょうか。私がSEOコンサルタントをしていたとき、部長から口うるさく「検索結果を見ろ」と教えられました。検索エンジンのアルゴリズムは日々進化していて、Googleの社員すらもよくわかっていません。そんなアルゴリズムを追いかけるの分が悪い。一方、検索結果から取得できる情報は極めて多いのです。たとえば、対象となるキーワードで検索し、表示された1位から10位までのページをくまなく読み込むと、下記のような情報を吸い上げられます。
①検索結果に表示されるタイトルや説明文
②それぞれのWebページで語られている内容
③それぞれのWebの見出しで使われているフレーズ
④それぞれのWebページのタイプ(比較サイトやサービスサイトなど)
⑤それぞれのWebページで訴求されているホワイトペーパー
上記のような情報を整理すれば、Googleがどんなページを評価しているのか、をおぼろげながら理解できます。それだけでなく、競合他社がどんなコンテンツを展開しているかがわかるので、独自性のあるコンテンツを作るためにヒントにも。ただし、ここでわかるのはあくまで検索エンジンがどのように考え、評価しているのかという情報だけです。ここからユーザーのニーズを類推し、コンテンツを作ることもできますが、もう一歩踏み込むことで成果につなげやすくなります。
6.機能的な「インデックス型コンテンツ」を構築するには
ほんとうに質のよいコンテンツを作るには、検索エンジンだけでなくターゲットユーザーの情報ニーズ分析が必要です。たとえば下図のようにユーザーの情報ニーズを購買プロセスごとに分類してみましょう。
この図を作る際にマーケティング担当だけでなく、営業担当やサポート担当など顧客接点がある部門と協力するとさらにリアルになります。ターゲットユーザーを定義する際には、自社にフィットするターゲットとは? という視点で考えるとよいです。業種や部署だけでなく、年齢なども関係するかもしれません。
ターゲットの情報ニーズを整理できたら、次はそこにどのようなコンテンツをぶつけていくのかを考えます。ユーザーの課題に対する解決方法は複数あることがほとんど。自社ならどのようなアプローチでその課題を解決するのか、そのための手がかりとなるコンテンツ(導入事例やホワイトペーパー)は何か、を考えていきます。こうしたプロセスを踏むことで、検索エンジンの評価と、ユーザーが求める情報の交点を目指せるのです。
やや面倒な手順かと思うかもしれません。たしかに、最初の設計に手間はかかりますが、先に述べたとおりBtoBのオウンドメディアでは数百ものコンテンツは必要ありません。まずは30コンテンツほどを目標にすればよいでしょう。反対に、この工程で手を抜いたオウンドメディアや、コンテンツの量に頼ったWebサイトはPVだけが増えてCVが増えないか、あるいはCVが増えても売上げにつながらない代物になります。
BtoBのオウンドメディアが抱える3つの課題を解決する方法は下記のとおりです。
①継続性の課題を解決するには
公開するコンテンツをターゲットユーザーのニーズに寄り添った内容へ限定すること。
②品質の課題を解決するには
検索エンジンが求める品質と、ターゲットユーザーの情報ニーズの交点を狙うこと。
③売上げ貢献の課題を解決するには
ターゲットユーザーの情報に対して、自社ならでは解決方法をぶつけること。
7.さいごに
BtoB企業のオウンドメディアは、SEO的視点ばかりを追求すると失敗します。反対に「メディア」という言葉にとらわれすぎても失敗しがち。大切なのは検索エンジンとターゲットユーザーの両方をしっかりと意識し、「メディア」という立ち位置を意識しすぎないこと。売上げに貢献するコンテンツを作るためには、「売れる瞬間」や「売れるメカニズム」をコンテンツへ反映することが重要です。つまりBtoB領域におけるコンテンツマーケティングのPDCAは「営業指標」も含めて行うべきです。営業部門とコラボレーションしながら、施策を運用できれば、成果はさらにあげられるでしょう。
PDCAの手法について解説したホワイトペーパーを無料でダウンロード提供しますので、ぜひこちらも参考にしてください。
ファストマーケティングはBtoBに特化したコンテンツマーケティング支援を行います。案件のご相談はぜひ、こちらから。Twitterでも情報発信を行っています。
BtoBに特化した伴走型コンテンツマーケター。残りの半生はひたすらコンテンツづくりをしようと思い立ち独立。京都出身。営業→Webディレ→SEOコンサル→事業会社でBtoBマーケ→フリーランス。特技はギター弾き語り。好きな映画はスタンドバイミー。ビッグフィッシュ。Twitterではコンテンツマーケティングや育児、日常などをつぶやいています。